少し前の話になるが、耳を疑うような出来事があった。
入院中のご利用者のご家族から「見ず知らずの人が、父の病室にいきなり来て、
退院後の支援を行う者ですと言って自己紹介してきた。」との連絡を受けた。
退院後の支援を当方のサービス事業所に依頼することとしていたご家族は当初、
突然訪れた人が当方の関係者なのかと思って対応していたら、全く関係ない人で
あることが分かりびっくりしたと同時に怒りが込み上げてきたそうである。
「なんで、父のことを見ず知らずの人が知っているのか!」
状況がいまいちつかめなかったため、関係者である医療機関へ経緯を確認すると
独立して新規に介護サービス事業所を立ち上げた者が、営業の一環で医療機関を
訪問した際に聞きつけた情報を使って、直接ご利用者のところへ売り込みに行った
とのことだった。
事業を立ち上げて間もない状況で、顧客確保を必死の思いで行うことは理解でき
ないわけではないが、社会的ルールや職業倫理を大きく逸脱する行為である。
それよりも問題と感じていることは、「たまたま患者情報を取り扱っているところ
へ居合わせた人が勝手に患者のところへ行ってしまった」と悪びれることなく状況
の説明を行う医療機関の態度についてである。
「たまたま患者情報を・・」などと言っている時点で、個人情報を守る責務を
感じていないことは明らかであろう。
コンプライアンスの欠片もない専門職は一刻も早く、我々の現場から立ち去って
もらいたいものである。
本件は、個人情報の漏洩であり、歴とした法令違反である。
ご家族は損害賠償請求の訴えを起こすこともできたが、後々のことなど色々と
考えた結果、行動を踏みとどまることとした。
コンプライアンスは、『法令遵守』と日本語訳されるが単に法律を守るというだけ
の意味ではない。
社会的規範、道徳的規範、職業倫理を守るという意味も持っている。
職業倫理を持たない専門職は、もはや専門職ではない。