長年、介護サービス事業に従事していると、ご利用者やご家族は様々な要望を
持っていること知る。
そんな中で、稀にではあるが聞く要望の中に「社名の入った車で自宅に来ないで
ほしい」というものがある。その理由は「近所の人に介護支援を受けていることを
知られたくない」ということのようだ。
奇妙に聞こえるかもしれない要望であるが、ご本人やご家族のその気持ちはわかる
ような気がする。
人は、他者が自分よりも身体的・経済的・精神的に劣っていると思うと優越感を
持ったり、劣っている人を蔑んだ目で見ることがある。そしてそれはまれに起こる
ことではなく、日常的に誰にでも起こることと思う。
しかし、優越感に浸っている本人はわかっていない。
明日、自分自身の身に何が起きるのかを。
誰でも明日、蔑んだ目で見ていた人と同様の状況にならない保証はどこにもない。
そして、いざ自分の身に起きた時に思うのである。「あんな態度を取らなければ
よかった」と。
誰にだって起こりえることで、自力ではどうすることもできないことに社会全体で
対応しようとして生まれたのが社会保障制度である。
制度に則った支援は、権利が発生した段階で誰でも当然のこととして受けることが
できる。そのことに対して差別や偏見を持つことほど稚拙な振る舞いはない。
蔑んだ目で見ていたその視線は、いつの日か自分に向けられるかもしれないことを
忘れてはいけない。