『厚生労働省が介護保険の福祉用具貸与・販売の見直しについて話し合う有識者会議を新たに立ち上げた。 ~中略~
やはり給付費の抑制策が最大の焦点だ。財務省はこれまでの提言(建議)で、制度の持続可能性を高める観点から次のように厚労省へ要求してきた経緯がある。
◯ 歩行補助杖、歩行器、手すりなど廉価な福祉用具を貸与から販売に切り替え、ケアマネジメントの費用がかからないようにすべき
◯ ケアプランの内容が福祉用具貸与のみの場合、居宅介護支援の介護報酬を引き下げるべき
こうした主張には、保険料負担が更に重くなっていくことを警戒する経済界も強く賛同しており、政府に具体化を働きかけている。』
との報道を見て思うこと。
介護保険の1割負担で福祉用具貸与による歩行器を利用することとなった場合を
考えてみる。(あくまでも一般的な事例として)
一般的な歩行器の1か月の利用料金は300円~400円程度であり、利用者に
とっては非常に低価格で利用することができる。しかし、実際にかかっている費用
は3000円~4000円で、9割は保険で賄われている。
購入すると定価で30000円~40000円する歩行器であるが、福祉用具貸与
事業者からすると10カ月以上利用していただけると元が取れてしまう。
歩行器は簡単に壊れる物でもなければ腐るものでもない。5年以上の耐用年数が
あることを鑑みれば、非常に儲かる商売である。
そして、この儲けの大部分が、限りある介護保険料や税金で賄われている。
歩行器を貸与から販売に切り替えると、1回だけ3000円~4000円負担する
だけで自分のものになる。こうした方が結果的には利用者負担も介護保険料による
負担も相当少なく済む。
また、今ではホームセンターへ行くと数千円で歩行器を手に入れることもできる。
この議論については、介護現場の関係者の間では「 貸与から販売へ切り替えると
状態像の変化に応じて適時・適切に福祉用具を使ってもらう機能が弱まる」とか
「 結果として福祉用具貸与のみのケアプランになるケースでも、ケアマネは他の
様々な支援を実施している」などの反論が出ているそうだ。
この反論は、簡単に訳すと「ただ働きはしたくない」と言っていることに等しい。
無論、ケアマネジャーはボランティアではないので、ただ働きを推奨しているわけ
ではない。
ただし、介護保険で歩行器しか利用する必要性がないということは、介護力が充実
しているか本人の自立度が高いことが想定されるので、「状態像の変化に応じて適
時・適切に福祉用具を使ってもらう機能が弱まる」という反論はちょっと苦しい。
そもそも、状態像の変化を確認する術はいくらでもある。
また、介護保険で歩行器以外のサービスを利用する必要性はあるが、中々サービス
利用に結び付かないということは、ケアマネジャーの提案力や調整力不足が否めな
いため、「 結果として福祉用具貸与のみのケアプランになるケースでも、ケアマネ
は他の様々な支援を実施している」という反論も苦しい。
ケアマネジャーには、生活場面全般において、ご利用者やご家族との合意形成を
図るという重要や役割がある。しかし、ケアマネジャーの中には、嫌がるご利用者
やご家族に対して無理やり説得することが合意を図ることと勘違いしている者も
いる。仕舞には、「あの利用者、あの家族は全く私の言うことを聞かない」などと
意味不明な発言をしたりする。
私には、そのようなケアマネジャーほど、今回のような反論を正論のようにいう
傾向があるように思える。
当ブログで何度も申し上げているが、介護保険制度上の財源や人材は非常に限られ
ているし、今後支援を必要とする人は増え続けるが担い手は減り続ける。
限りある財源や人材をより有効に活用して、必要性の高い方に支援の手を集中させ
なければならない時に何でもかんでも反論するような介護現場の関係者って何考え
ているのだろうか。
いや、何も考えていないのかもしれない。