これまでの社会人経験の中で、
病院や高齢者施設に所属する相談員の役割に従事して苦悩することが多くあった。
相談員の役割の大部分は、ご利用者(患者)やそのご家族の『困りごと』を聞き、
解決できる方法をともに考えながら、必要な社会資源が利用できるよう調整したり
提案することにあると考えている。
しかし、その必要な社会資源が自分が所属する病院や高齢者施設であった場合には
内部の事情をよく知っているため、純粋に『困りごと』の解決をともに考えること
が難しくなることがある。
それは、自分が所属する組織が、その『困りごと』を解決するキャパシティを持ち
合わせていない、もしくは内部のルールが邪魔をして実践することができないなど
組織側とご利用者側の利益が相反する場合に起きる。
そのため、ご利用者(患者)やそのご家族を代弁する立ち位置にありながら、所属
する組織の事情を説明する“組織の代弁者”になってしまうことがある。「うちの
病院(施設)は、○○というルール(事情)があるため、あなた方のご希望に沿う
ことはできません。」といった具合に。
そのような場面に遭遇した時には、代替え案を提示したり、他の病院(施設)を
紹介することが多くあるのだが、同時に「ちょっとした工夫があれば、うちの病院
(施設)で対応することはできるのに。」と思うことも多くあった。
そして、その「ちょっとした工夫」を自分が所属する組織に提案して、こっぴどく
怒られた経験が多くある。
今思えば、「不躾で“工夫のない”提案をしてしまっていたなぁ」などと反省する点
は多々あったが、それでも「相談員である前に一人の人間として、目の前に困って
いる人がいるのなら何とかしたい」との思いが強くこみあげていた。
介護業界に限らず、どの業界であっても所属する組織を優先する社員が、組織から
高い評価を受けやすいと思うし、「組織人なら当たり前のことで、組織を守ること
が社員の使命だ。」と言われればその通りだとも思う。
こうした経験から、「いつか独立して、組織を守りつつも、純粋に『困りごと』の
解決をともに考えることができる会社を作りたい」と考えていた。
そして、独立して11年が経過している今も尚、この思いを強く持ち続けている。
“ご利用者(患者)やそのご家族の代弁者”となるはずの相談員が、“組織の代弁
者”となってはいけない。また、組織を優先して、ご利用者(患者)やそのご家族
を二の次にするような相談員を優遇するような組織であってはならない。さらには
「ちょっとした工夫」を考えることをやめてしまってはいけない。