高齢者介護の現場に身を置く者にとって、認知症への理解を深めることは不可欠な
条件と言っていいだろう。
ただし、認知症と一口で言っても様々な分類があり、原因や主症状も異なるため、
自ずと治療や対応方法も変わってくる。また、今まで明らかになっていなかった
病気のメカニズムや有効な治療方法が少しずつではあるが解明されている分野で
あることから、一昔前の知識では不十分ということも珍しくなく、常に知識を更新
していかなければならない。
そのため、「認知症への理解を深めることは不可欠」とはいっても、高齢者介護
サービスに携わるすべての人が等しくその知識を持つことは、理想ではあるが中々
難しいのが現実かもしれない。
そうした状況にあって、さらに高齢者介護の現場に混乱をもたらすことがある。
それは、認知症と似た症状を示すことがある精神疾患や発達障害との違いの見極め
である。
精神疾患の中で非常に多いとされる双極性障害や統合失調症は、脳内の病変に起因
するという点においては認知症と似ているが、記憶障害を伴わないことが多いと
いう点においては全く異なる症状といえる。加えて、精神疾患は遺伝的な要素だけ
ではなく、心因的な要素によって発症することもある。
そのため、ストレスのトリガーを認識している人が多く、支援者が無意識でその
トリガーをひいてしまったことによって関係構築が著しく難しく長期間に及ぶこと
もある。
さらには、もともと発達障害を抱えていた方が認知症を発症することや精神疾患と
認知症を併発する高齢者も少なくないため、今どの疾患に起因する症状が出現して
いるのかを理解することは至難の業といえる。
そこで、こうした疾患や症状に精通する専門職の存在が重要となる。
しかし残念ながら、その専門職は全国各地にくまなく配置されているわけではなく
また、専門職間の知識の差も大きいと感じる。
高齢者介護の分野における課題の一つとして、こうした状況の改善があると思う。