人の精神心理状態というものは、常に一定ということはない。
私も、「何でこんなに落ち込んでいるのだろうか」とか「別に憎くもない相手に
対して何でここまで腹を立てているのだろうか」と、普段にはない感情の起伏を
覚えることが度々ある。
そんな時に、「ふと我に返る瞬間」があると、冷静に思考することができたり、
視野が広がって客観的に物事を捉えることが出来たりする。
先日、長年ご家族の介護をしている方とお話をしていると、その方が「(介護して
いる家族の)病気の状態が良くなったり悪くなる度に一喜一憂して、自分自身の
精神状態が不安定になってしまうことが度々ある」とおっしゃっていた。
その後も様々な話題と取り上げながら会話していると、その方が「こうやって私の
話を聞いてくれる人がいること。そして、いざ困ったことが起きたら手助けしてく
れる人がいることがわかっただけでとても穏やかな気持ちになれたように思う」と
おっしゃっていた。
人の精神心理状態が不安定になる原因は、内的外的なものを含めて様々あるし、
その因子が複合的に重なることによる場合もある。また、物事の捉え方も百人百通
りある。
そのため、第三者が主体となって、他者の精神心理状態の安定を図ることは非常に
難しいし、ほぼ不可能に近いと思っている。
そうすると、精神心理状態が不安定なりやすいご家族の介護をしている方に接して
対人援助技術者である我々は、何を考えどのように振舞うことが求められているの
だろうか。
対人援助技術を論理的に学び、数十年間その業務に従事してもなお、これといった
答えが見つかってはいないように感じている。それでも、そういった方々が「ふと
我に返る瞬間」を作るきっかけとなる存在でありたいと思っている。
個人差はあるものの、人には自然治癒力がある。その力を信じて十分に力を発揮
することができるように環境を整えることが我々に求められていることなのかも
しれない。