高齢者介護の現場に長く身を置いているが、「違うんだよなぁ~、でも中々わかっ
てもらえないんだよなぁ~」と悩むことがある。
それは、認知症を患っているご利用者のご家族と、ご本人の生活の安定を図るため
に必要な環境改善や利用するサービス内容の変更を提案した際によくみられる。
ご利用者の認知症状が進行して日々混乱を生じている中で、ご家族が現状を変更
することに対して、抵抗を感じることは理解できないわけではない。まして、現状
を変更することで混乱を助長して、さらにご本人を苦しめることになるのではない
かと思う気持ちは十分に理解できる。
しかし、その時に多くのご家族が口にする「もう少し(認知症が)進行してからに
したい」との考え方は賛同できない。
恐らく、認知症に関する正しい知識を持っていないご家族は、認知症が重度化する
状態を「何も感じない”無”の状態になる」と勘違いしているように思う。
がしかし、人間が意識のある状態で、”無”の状態になることはない。それは、例え
認知症状がどれだけ進行したとしてもだ。
表現が上手にできなくなったとしても、喜怒哀楽の感情は健常者と同様にあるが、
表現が上手にできなくなったために、「何も感じていない」と勘違いされてしまう
ことが多くある。
それに、認知機能が正常に働いている状態であれば、多少不安定な状況に身を置く
ことになっても対応する能力があるので、生活の安定を図ることができる。
ところが、認知機能が低下して対応する能力が衰えてくると、自力では生活の安定
を図ることがとても難しくなってくる。その結果として、日々生じている混乱が
増していくことになる。
そして、認知機能が低下するほどに対応する能力が失われていくため、この混乱は
より深刻なものとなり、ご本人が苦しむ状態がより強くなることとなる。
だから、ご本人の生活の安定を図るための環境改善や利用するサービス内容の変更
が必要となった場合には、「早ければ早いほど」ご本人が苦しむ状態を薄く短く
することが可能となり、「もう少し(認知症が)進行してから」は、ご本人が苦し
む状態を長く濃くすることになってしまう。
そういった状況であることを踏まえて、ご家族に説明し提案するのだが、こちらが
思うようには受け取っていただけないことが多くある。
自分の説明力不足、提案力不足を痛感する。