自動車関連企業の不正が相次いでいる。
昨年、ダイハツ工業が開発を行った海外市場向け車両の側面衝突試験の認証申請に
不正行為があったことが発覚した。
そして昨日、大手自動車メーカー3社(トヨタ、ホンダ、マツダ)のトップによる
国の認証試験で行われた不正に対する謝罪会見があった。
車は、国民生活を支える重要なツールであるばかりか、間接的にではあるが人の命
にかかわる性質を持っているため、安全性の担保は非常に重要である。
こうした事実を受けて、自動車メーカーに対する不信感を募らせていたり、怒りを
覚える方も多くいることだろう。
しかし私は、この報道を耳にして別のことが頭をよぎった。それは「生産性を追求
した成れの果てがこうした不正行為であろう」ということである。
良質なものを丁寧に作ろうとするとどうしても手間とコストがかかる。
質より量に重きを置いた場合には、最低限許容される質を担保しつつ、大量に生産
する方法を追求していくことになる。
車は、移動手段としてばかりではなく、物流や移送も含めた国民生活に欠くことは
できないものである上に、輸出品として日本の経済を支える重要な役割も担って
いるため、多量にそして安価に市場流通させる必要がある。
そのためには、生産性を追求することは必然といえる。
今、介護業界では「生産性の向上」が呪文のように唱えられ、その流れに乗ること
が当然のこととされてきている。
受け手となる高齢者が増え続け、担い手となる若者が減り続けている昨今、生産性
を上げることは重要なミッションである。
しかし、生産性を上げるということは、質より量に重きを置いて、最低限許容され
る質を担保しつつ、大量に生産(サービス提供)する方法を追求することである。
政策や国会の議論を聞いていても、私には生産性を上げることばかりが独り歩き
していて、最低限許容される質に対するコンセンサスを得る話し合いが抜け落ちて
しまっているように思えてならない。
介護保険サービスは、人の生活や生命に直結する事業である。最低限許容される質
を曖昧にしたまま、大量に生産(サービス提供)する方法を追求することは危険
極まりない。
将来、生産性の向上を妄信した介護保険サービス事業者による不正の発覚が多発
することは予想に難くない。
しかし、自動車メーカーしかり介護保険サービス事業者しかり、悪意を持って不正
を行うというよりも、政治や消費者が最低限許容される質を都合よく曖昧にした
まま生産性の向上を強要してきた結果ではないかと思ったりする。
間接的にではあるが人の命にかかわる性質を持っている自動車メーカーよりも、
人の生活や生命に直結する事業である介護保険サービスは、最低限許容される質は
より厳格でなければならない。
はっきり言って、受け手となる高齢者が増え続け、担い手となる若者が減り続けて
いる介護業界において、このままの状態を放置しておくと、ただ普通に職務に従事
しているだけで、「不正行為だ」と言われかねない。
低負担高福祉も幅広いニーズに応える社会保障制度の維持も現実的ではないことを
国民に理解してもらう政治判断が求められている。