介護にかかわる相談を受けている中で、ご利用者やご家族に必要と思われる支援を
提案することがしばしばあるのだが、そうした時によく聞かれる言葉に「まだ早い」
が多くある。そしてその枕詞に「もう少し認知症が進んでから」という言葉がよく
出てくる。
恐らくは、「今ある環境を変えてしまうことはご利用者本人のストレスとなるため、
認知症が進行して物事がわからなくなってから環境を変更したほうがご利用者本人
のストレスが軽減できるのではないか」との発想からこうした言葉が出てくるので
はないかと想像される。
環境を変えなくても現状の日常生活を維持できることに越したことはないが、年齢
や持病の如何にかかわらず、環境の変化には一定のストレスが伴うものである。
そのため、ご利用者のストレスを考慮してそのように発想することがいけないこと
とは言えない。
ただし、その発想には決定的な間違いがある。
それは、「認知症が進行して物事がわからなくなってから環境を変更したほうがご利
用者のストレスが軽減できる」という部分にある。
たとえ認知症状が進行して、自分の思いを正しく相手に伝えることが出来なくなっ
ていたとしても、何も感じていないわけではない。むしろ、自分の異変を感じて
不安に苛まれていることが多くあり、そのためストレスに敏感になっている。
つまり、認知症が進行した方ほど環境の変化といったストレスへの耐性が弱いので
ある。
そこで私は、「環境を変えることでご利用者がより豊かな生活を過ごせることが期待
できるのであれば、認知症が進行してからではなく、環境の変化に適応する能力が
低下するまえに実行することをお勧めしたい」と伝えることが多くある。
しかし残念ながら前述のご家族のような発想を持つケアマネジャーも少なくない。
自分自身も環境を変えることにストレスを感じているからなのか、単に調整能力が
低いからなのかはわからないが、客観的に見て明らかに環境変化が求められている
場面であっても「何が何でも現状のサービス利用を継続する」といって頑張っちゃ
っているケアマネジャーを数多く見てきた。
認知症状がかなり進行してしまった状態で多機能サービスの利用相談をしてくる
ケアマネジャーが後を絶たない。受け入れた我々としては、「もう少し早い段階で
ご相談いただけていればまだまだ在宅生活を過ごせた可能性が高かったのに、この
段階でご相談いただいても在宅生活は非常に難しい」という悔しい思いを幾度も
してきた。
この場を借りて改めて申し上げるが、「認知症が進行して物事がわからなくなって
から環境を変更したほうがご利用者のストレスが軽減できる」は大間違いである。