先日、新農林水産大臣が備蓄米を大量に市場へ放出して、お米の店頭価格を大幅に
引き下げる方針を表明したそうだ。
一消費者として、また給食事業を営む経営者としては大変ありがたいことだ。
ただし、こうした政策は急場しのぎでしかなく、何一つ根本的な解決にはなって
いないので、今回のようなことが今後も繰り返し起きることは容易に想像できる。
ではなぜ、お米の値段が急激に上がったのだろうか。
それは一言で言えば、「国が米の生産や流通をコントロールしようとしすぎたツケ」
が回ったということだろう。
そして、コントロールしようとしたのは、米そのものだけではなく生産者の思考も
同時にコントロールしたため、米の生産や流通は取り返しのつかないところまで
行きついてしまうかもしれない。
巷では「減反政策がこうした事態を引き起こした」といった内容が多く報じられて
いるが、減反政策も国が米の生産や流通をコントロールした経過の一つと言える。
国はこれまで「米と生産者を守る」という詭弁のもと、長年に渡り米の”鎖国政策”
を続けてきた。
しかし、95%の米農家が赤字という状況から見てもわかる通り、生産者は守られ
てはいない。それどころか、鎖国政策と補助金地獄によって生産者の競争力や思考
力を奪いつつ、身動きが取れない状況に追いやったのである。
この鎖国政策は、海外に対するものばかりではなく、国内の他業種が入るスキを
与えず村社会を長年形成してきた。
さらに、「高品質の維持」の名の下で非効率的な作業を強いておきながら、その一方
で生産性の向上という全く矛盾した要求を突き付けてくる。
この構図、まるで私たち高齢者介護の業界とそっくりだ。
「米農家を継承する人も新しく始めようとする人もいなく、人手不足だ」と多くの
人は言うが、私から言わせれば「そりゃそうだろう」である。
国は、「赤字になっても補助金で面倒を見てやるから、深く考えることをやめて、
文句を言わず黙って米を作り続けろ」と言ってきた。
そんな業種に「魅力を感じてほしい」という方が無理がある。
今ご苦労されている米農家さんには大変失礼な言い方であることは重々承知してい
るが、私たち高齢者介護の業界も全く同じような構図と状況にあるため、あえて
このように言わせていただいた。
主体性を奪われ、従うのみの状況が長く続けば、人は考えることをやめてしまう。
そこには創意工夫や新たな発見は生まれず、競争力も生存能力も地に落ちる。
やがてその業種は衰退し、最悪絶滅することになる。