前回の続き
先月末に厚生労働省から示された『有料老人ホームにおける望ましいサービス提供
のあり方に関する検討会』の提言の中で問題視されている”囲い込み”と、”やりすぎ
居宅サービス計画の横行”について取り上げ、問題視されている”囲い込み”について
も思うところがあると申し上げた。
前回も申し上げた通り、介護保険制度はご利用者自身が利用したいと思う介護保険
サービスを自ら選択することができることにあるため、入居と同時に利用する介護
保険サービス事業者が限定されてしまうことは制度の理念に反することになる。
有料老人ホームへの入居に至る経緯は人それぞれ違うとは思うが、入居以前にも
介護保険サービスを利用している方が多く、そしてその多くには馴染みのケアマネ
ジャーや介護保険サービスが存在している。それが入居と同時にケアマネジャーも
利用していた介護保険サービスも変更しなければならないとすると「それは横暴だ」
と考える方がいたとしても不思議ではない。
ただこの”囲い込み”の考え方については、厚生労働省は二枚舌を使っているとしか
思えない節がある。
それは、独居高齢者世帯や老々介護世帯への対応の”切り札”として、介護保険制度
に新たに設けられた多機能系サービスの存在についてである。
従来、在宅で生活する要援護者は、必要に応じて通所系サービスや訪問系サービス
短期入所サービスを個別に利用することが一般的である。その際に、どの介護保険
サービス事業者を利用するのかはご利用者が選択することになっている。
しかし、多機能系サービスの利用を選択すると今まで利用していた通所系サービス
や訪問介護、短期入所サービスは利用できず、担当のケアマネジャーも多機能系
サービス事業所所属のケアマネジャーへ変更することになっている。
そして、厚生労働省はこのことを様々な利便性があるとして推奨している。
つまり、厚生労働省は”囲い込み”について、ある時は「良くない」といい、ある時
は「良いこと」と言っていることになる。
個人的には、一般的に言われている”囲い込み”が悪いこととは思えない。同一の
組織で一体的にサービス提供を行うことへの利便性は、提供者側の利益だけでは
なく、ご利用者の利益にも大きく貢献すると考えている。
あえて問題があるとすると、契約の前段階で「馴染みのケアマネジャーや介護保険
サービスが変更になる」ことをご利用者へ知らせていない場合であろう。
もしも、事前にご利用者へ知らせていて、それでも入居やサービス利用を希望した
とすると、それはご利用者が選択したことになり、そのご意向は尊重されべきでは
なかろうか。
だから、問題視するべきなのは”囲い込み”そのものではなく、”説明と同意”の手順が
適切に行われているかどうかだろう。
