人は、様々な生活場面で好む好まざるにかかわらず、”変化”を求められることが度々
ある。その変化は、些細な事柄から生活環境を一変するほど大きな事柄まである。
例えば、何らかの理由で他の地域へ転居して生活環境が大きく変わることや卒業、
就職、転職などによって所属環境が変わることもある。
しかし人は得てして、その”変化”を好まない傾向にある。
では、「人はなぜ変化を嫌うのだろうか?」
そこには、未知の状況や変化に伴う不確実性を嫌い、現状を維持しようとする傾向
を持つ、”現状維持バイアス”と呼ばれる心理的なメカニズムが大きく影響していると
言われている。
その場合に働く思考として、「今のやり方で問題はないから、このままでいい」とか
「変えることで得られるメリットよりも、失うものが大きい気がする」とか「よく
分からないものに手を出すよりは、慣れている方が安心」などがあげられ、
”変化=ストレス”へと変換されてしまう。
人は無意識の中で、「得られるメリットと失うデメリットを比較した場合には、デメ
リットをより高く評価する」傾向にあると言われている。
そのため、「現状維持」という判断を下すことが多くある。
しかし、この”現状維持バイアス”が強すぎてしまうと、より良い選択や成長の機会
を自ら放棄することになったり、いつかは避けて通ることができない変化が起きた
時に適応できなくなる危険性を孕んでいる。
高齢者介護の現場における相談援助職は、専門職として見立てる”よりよい選択”と
ご利用者(ご家族)の意向による”現状維持バイアス”との間で悩むことがある。
それは、ご利用者のより豊かな生活を勘案して新たな介護サービス等の利用を提案
した時に、先ほど述べた「今のやり方で問題はないから、このままでいい」とか
「よく分からないものに手を出すよりは、慣れている方が安心」と切り返されて
しまうことである。
しかし往々にして、ご利用者(ご家族)の”現状維持バイアス”意向のとおりに支援
を継続してしまうと、ご利用者もしくはご家族が「いつかは避けて通ることができ
ない変化が起きた時に適応できなくなる」状況に陥ってしまっていることがある。
例えば、ご利用者のより豊かな生活やご家族の介護負担を勘案して、介護サービス
の利用や施設入所を提案した際に、「住み慣れた自宅で穏やかに過ごせているので
今のままでいい」とか「もっと認知症が進んでからの方が本人に負担がない」と
いった理由で、提案が却下されてしまうことがある。
ところがある日突然、ご利用者やご家族に避けられない大きな変化が訪れると状況
は一変してしまう。それは、ご利用者の病状や体調が悪化した場合やご家族の介護
に対する体力や気力が著しく減退した時などである。
そのような状況になると”現状維持バイアス意向”は、どこかへ吹っ飛んでしまって
誰もが望まない大きな変化を決断しなければならなくなることがある。
しかしその時にはすでに、ご利用者(場合によってはご家族も)その大きな変化に
適応することが難しい状態になっていて、必要以上に在宅生活の継続や健康寿命を
縮めてしまうという状況に追い込まれてしまうことがしばしばある。
そのため多くの相談援助の専門職は、そういった状況を見越して”よりよい選択”を
提案するのである。
なので相談援助の専門職は、”現状維持バイアス”を理解しつつ、ご利用者やご家族に
対して、「変化することで得られるメリットと変化しないことで受けるデメリット」
を丁寧に説明していく必要がある。
