北海道江別市でケアプランセンター、小規模多機能ホーム、デイサービス、訪問看護ステーションを運営するみのりの丘グループ

みのりの丘

みのりの丘代表ブログ

「生きる」ことを支援するということは

2020.9.7

3年に1度の見直しが行われる介護報酬改定の内容を審議する介護給付費分科会が

先月27日に開催され、同分科会で『経営者で組織する団体の代表が、現場で発生

する事故の扱い方について問題を提起した』という記事が目に留まった。

 

同記事によると

全国老人保健施設協会の東憲太郎会長から「転倒や転落、誤嚥を事故と認定する

ことについて少し意見を言いたい。例えば、認知症で危険の意識がなく歩行能力も

衰えている方などが転倒されるということは、もう事故ではなく老年症候群の1つの

症状ではないかと思う。」さらに続けて、「我々はもちろん拘束はしないが、転倒

などを事故とすることで訴訟が頻発している。しかも敗訴が多く大変問題となって

いる。転倒や転落、誤嚥は本当に事故なのか、ということも検討して頂きたい。」

呼びかけた。

とのことだった。

 

個人的な感想としては、それなりに立場のある方が公的な会議の場でここまで大胆

に踏み込んだ発言をしたことに対して非常に驚いた。

 

当たり前のことであるが、私たちも転倒や誤嚥を起こしたいわけではない。

そのような状況にならないように話し合いを重ね、できる限りの対策を講じ、細心

の注意を払って支援にあたっている。

それでも残念ながら転倒や誤嚥は起きてしまうし、その多くは人的には防ぎようが

ないことが多い。

 

当然、ご利用者には大変申し訳ないことをしてしまったという思いが残る。

しかし、それらすべてを『人的ミス』と片付けられ、果てには訴えを起こされて

しまうと現場は委縮して何もできなくなってしまう。

 

こうした状況が常態化してしまうと

ご利用者から「少しでも歩けるようになりたい。」というご意向を聞いていても

現場は「転んで怪我して訴えられたら困るから黙って座っててください。」という

ようになってしまうかもしれない。

また、ご利用者から「もう少し形のあるものを食べたい。」と言われても、現場は

「誤嚥して肺炎にでもなったら訴えられるから今まで通りミキサー食だけ食べて

いてください。」というかもしれない。

果てには、認知症状が出ている方に対して、身体拘束の必要性の再考を求める声が

出てくるかもしれない。

 

『単なる延命ではなく生きる』ことを支援したい私たちにとっては、このような

状況になってしまうことは無念であり苦痛でしかない。

仕事のやりがいを無くしたスタッフは、「私たちはロボットを支援しているわけ

ではない。長年人生を歩まれ、その経験から生まれたご意向や生活習慣を持った

人間を支援しているんだ」といって現場を離れていくかもしれない。

 

このようなことを言うと「職務怠慢の言い訳だろう!事故が起きても許される

免罪符を持ちたいのだろう!」とご批判を受けるかもしれない。

そのため、多くの経営者や現場スタッフは喉元まで出かかっても言葉を飲み込んで

『事故』への謝罪をし続けていたのである。

私たちがやらなければならないことは、「とにかく謝罪する」ということではなく

生きることを支援する上で予測される身体的、精神的、経済的リスクの評価と対応

をご利用者やご家族へ丁寧に説明して同意をいただき、状況が変わる都度に説明と

同意を行うことではないかと思う。

 

多方面から批判を受けるであろうことを承知の上で、私たちの苦しい思いを代弁

してくださった老健協の東会長には感謝の気持ちでいっぱいである。

 

そして私たちはこれからも、リスクを最小限にとどめつつ、『生きる』こと

を支援し続けたいと思う。