前回の続き
ストレス社会にあって、同じ社会環境の調整であっても、ストレスを取り除く方に
のみ偏るのではなく、個人の耐性強化に必要な調整にもっと力点を置いた方が良い
と申し上げたが、具体的にどのように調整していけばよいのだろうか。
まず、ストレスの根源は「本人と環境の間に生じる誤差」と置き換えることができ
るのではないかと思う。そしてその誤差が大きくなるほど増えるほどにストレスが
増していくのではないだろうか。
前回は、誤差が生じている環境そのものを変えることでストレスを軽減する治療が
あることを述べたが、日常生活の中には変えることが難しい環境や変えることで
新たなストレスを生み出す要因となる環境もある。
そこで、本人が環境との誤差を埋めるべく歩み寄り、問題を徐々に整えてストレス
を受け入れる手助けをする治療もまた有効と考えられている。
例えば、家庭や学校、職場において、自分が理想とする生活像があったとして、
その理想通りに事が進まないことがストレスと感じている場合に、学校や職場から
一定の距離を取って心を静めることも時として重要ではあるが、それと同時に理想
とする生活像そのものを見直すというアプローチもあってよいのではなかろうか。
そういったアプローチを手助けすることに力点を置くことで、柔軟な思考性を育み
ながら、ストレスを軽減することができるばかりか、ストレスへの耐性を強化する
ことが可能になるのではないかと思う。
また、ストレスの原因となる環境には、個人に帰する因子、そして個人では抗うこ
とができない(難しい)因子が多く含まれている。
例えば、”加齢”はストレスを生み出す因子になりやすい。「若いころは、当たり前の
ようにできていたことが出来なくなってきた」とか「家庭や社会に貢献する動きを
取ることが出来なくなってきた」といった状況はストレスとなりやすいが、加齢を
止めることは不可能だろう。
そうした人を前にした時に、「適度に運動、適切な食事や睡眠を摂りましょう」と
アンチエイジングな取り組みを勧めることはあっても、「加齢を受け入れつつ、衰え
つつある中で今できることを確実に行えるようにしよう」と提案する人はいない。
この様な場合も、理想とする生活像そのものを見直すというアプローチによって、
柔軟な思考性を育みながら、ストレスを軽減するだけではなく、ストレスへの耐性
を強化することが可能になるのではないかと思う。
あくまでも私見ではあるが、ストレス社会を上手に生き抜くには、誤差を生み出す
環境を遠くに置くばかりではなく、環境との誤差を縮めるトレーニングを積み重ね
ることが重要で、その結果として柔軟性のある思考やストレスへの耐性が備わるの
ではないかと思う。