3年に1度見直しが行われる『介護報酬改定』の施行が来年4月に迫っていること
は当ブログで何度も取り上げているところであるが、そうした中で
厚生労働省が進めている介護保険の総合事業の見直しをめぐり、認知症の人と家族
の会が猜疑心を募らせている。
18日、公式サイトで「緊急声明」を発表。市町村の判断で要介護の高齢者も対象に
含めることを認める中身について、「要介護者の保険給付外しに道を拓く突破口。
極めて危険」と強く反発した。そのうえで、「介護保険の受給権の侵害につなが
る。絶対に認めるわけにはいかない」と撤回を求めている。~中略~ 家族の会は
こうした見直しと、政府内で継続的に取り上げられている改革案とを結びつけてい
る。要介護1、2の訪問介護や通所介護などを給付から外して総合事業へ移す、とい
う改革案だ。 緊急声明では、「制度の持続可能性の確保を名目に進められている
給付費削減の流れに沿った見直し」と厚労省を批判。
との報道を目にした。
この緊急声明は特に的外れなものではなく、その通りであろうと思う。
せっかく制度化されたフォーマルな社会資源である『介護保険サービス』であるし
多額の税金や保険料が投入されているので、多くの国民に広く活用してもらうべき
であろう。
要介護状態が重度化して多くの支援を必要としている方々はもちろんの事、要介護
状態にならないための予防支援にも活用されるべきであり、それは介護保険制度の
理念でもある。
しかし一方で、以前に当ブログでも取り上げたとおり、介護保険サービスにおける
介護予防は、医学的モデルの要素が強すぎる。
「運動・栄養・口腔ケア」が呪文のように唱えられ、短期集中でこれらの改善プロ
グラムを受けることで、多くの高齢者が健康的な生活を営むことができると信じら
れてきたが、全くと言っていいほど優位性のある効果は得られていない。
「フレイル予防を通じた健康長寿のまちづくり」を提唱し、全国各地へ出向き、
取り組みの促しを行っている飯島勝矢東京大学教授らの研究によると、運動習慣が
なくても文化的活動や地域活動の習慣がある人は、運動習慣しかない人と比べると
フレイル(虚弱)状態に陥るリスクが1/3に減るそうである。
同研究では、フレイル予防への優位性は
『 地域活動 > 文化的活動 > 運動習慣 』となっており、運動習慣の貢献
度が一番低いことになる。
利用できるはずの介護保険サービスの権利がはく奪されることは由々しき問題では
あるが、「国の制度を利用していれば誰でも健康的な生活を過ごすことができる」
といった偏った発想は、人が生きていくうえで欠かすことができない人と人との
情緒的な結びつきを軽視することに向かっていくのではないかと思える。
多額の国費を使わなければ実現しない介護予防よりも、住み慣れた地域で気軽に
参加できるインフォーマルな社会資源の方が実利に適っているのではなかろうか。
当方が運営しているインフォーマルな活動(当方では自主事業と呼んでいる)には
要支援や要介護の認定を受けている方々も多数参加してくださっている。
気の合う仲間と談笑したり食事を一緒に摂ることで介護予防にとどまらず、新たな
生きがいが生まれることもある。
介護保険サービスを充実させることも重要であるが、インフォーマルな活動の輪を
広げることもまた重要である。