認知症医療の第一人者として知られた精神科医の長谷川和夫(はせがわ・かずお)
さんが13日、老衰のため死去したとの報道を見た。
先生は我々の業界では知らない人はいない、認知症の診断に使われる認知機能検査
「長谷川式簡易知能評価スケール」の発案者としても著名な方である。
20年ほど前の話になるが、
その著名な先生が当時私の勤め先の地域でご講演されることになり、関係者一同
大いに盛り上がった。
ところが、先生のご講演の前座を務める方が急遽欠席することとなり、関係者が
大慌てしている中で、たまたま事務局へ顔を出した私に「お前が代わりにやれ!」
との無茶ぶりがあった。今になって思えば、当時は駆け出しのケアマネジャーで
人前で講演などしたことがない上に、あの著名な先生の前座なんて無理がある。
とはいえ、当時は怖いもの知らずで失うものも少ない若造だったこともあって、
深く考えずに承諾した。
著名な先生のご講演に水を差してはいけないとの思いで、徹夜して必死に原稿を
仕上げたがその内容はご想像通りのひどいものだった。
講演終了後に放心状態で控室で休んでいた私に、ご講演から戻られた長谷川先生が
「認知症ケアで一番大切なのは愛なのですか?」と声をかけていらした。
確かに私は講演の結びで「認知症ケアで一番大切なのは愛です!」と言って締め
くくった。
『認知症』を科学的にとらえて解明しようとされていた先生は、「若造が何を青臭
いこと言ってんだ」と思われたことだろう。おかげで放心状態が長時間継続する
ことになってしまった。
それから長い年月が過ぎたある日、長谷川先生のお母さまが認知症を発症した際
に、先生が「認知症ケアで一番大切なのは愛ですね」とおっしゃっていたとの報道
を目にした。その報道を見て、「やっぱ愛だよね」とほくそ笑んでいた自分が今で
も思い出される。
私たちの業界の発展に多大な恩恵を与えてくださった長谷川先生に改めて感謝申し
上げるとともに、ご冥福を心よりお祈り申し上げます。