会社などの一般社会においては、
何かのトラブルや事故が発生した場合に、「なぜそのようなことが起きたのか」を
検証することが日常的に行われる。そして、その検証結果を受けて同じことが繰り
返されないように対策を講じるものである。
こうした検証は、我々介護業界においても重大な事故を未然に防ぐことやサービス
の質の向上を目的として頻繁に用いられる手法である。
しかし身近なところで、「それって検証したことになるのか?」と疑問を持ち
たくなるような稚拙な検証が行われている場面が多くあるように感じている。
例えば、歩行機能の問題を抱えていない人が道で転倒してしまった時に「どうして
転んでしまったのか?」との問いに「道に石が落ちていたから」と答えたとすると
今後の対策を講じるには十分とはいいがたい検証結果と言える。
転倒した人が答えた通りに検証した結果を総括すると、「その人は石に躓いてしま
うので、転倒を防ぐためには、石が落ちていない道を選んで歩行する」ということ
になるが、この検証結果は現実的とは言えない。
石一つ落ちていない道がこの世に存在するのかというと中々そんな道はないだろう
し、その人が歩く直前に石を拾っておいてくれる人がいるわけでもない。
そもそも「石を避けて通る能力があるにもかかわらず、なぜ避けなかったのか?」
という新たな疑問がわいてくる。
つまり、事故の原因究明に必要な検証が十分に行われていないということである。
その転倒した人は、常に石に躓いているわけではなかろう。落ちている石に躓き
続けているようではおちおち道を歩いてもいられないし、「転倒するから道は歩か
ない」などと言う誤った判断に陥る危険性もある。
実際には、転倒した時に「いつもとは違う何か」が同時に起きてしまったために
「石に注意が向かなかった」、「石に気が付いてはいたが避けきれなかった」こと
が大きな原因であろう。
とすると、「いつもとは違う何か」とは何であったのか。そして、「いつもとは
違う何か」がなぜ起きたのかを検証することが求められることになる。
このことは、ケアマネジメントにおいても同じようなことが言える。
転倒したことがある要援護者に対して「筋力の低下が原因だからリハビリをすると
転倒の危険性を解消することができる」との短絡的なケアプランを目にするたびに
ウンザリさせられる。
かりにそのケアマネジャーの見立て通り、筋力の低下が転倒の原因であるなら、
その要援護者は常に転倒していることになる。なぜなら、数日で筋力の低下を解消
することは不可能だからである。
日常的にそして頻繁に転倒している人であっても、筋力低下だけが転倒の原因と
なることはほぼないし、数年に一度しか転倒していない人であれば筋力低下だけが
その原因となるなどはあり得ない。
転倒はその他の原因と相まって起きている。
先日当ブログで「ケアマネジャー不足の対策として、専門性が高い業務に相応しい
介護報酬の確保」を訴えたが、稚拙な検証しかできないようでは相応しい報酬が
得られることはないだろう。