北海道江別市でケアプランセンター、小規模多機能ホーム、デイサービス、訪問看護ステーションを運営するみのりの丘グループ

みのりの丘

みのりの丘代表ブログ

健康であれば問題は解決する?

2024.5.6

30年間、介護や福祉の現場に身を置いて、つくづく思うことは、我が国における

介護予防や自立支援にかかる施策は、「健康であれば問題は解決する」一辺倒の考え

方にあるように思う。

国は、”運動、栄養、口腔機能の維持向上”を呪文のように繰り返し、「健康さえ維持

しておけば要援護状態になることも自立した生活を脅かされることもない」とうそ

ぶいている。

 

確かに健康でいることに越したことはないし、健康を害することでできなくなる

行為はある。しかし、要援護となることも自立した生活を過ごせなくなることも、

他人から見ると”些細な事”と思われるような小さな躓きから始まることも決して

少なくはない。

そしてその小さな躓きは、”運動、栄養、口腔機能の維持向上”の呪文を唱えても

解消することが難しいことが多くある。

 

だいぶん昔の話になるが、

定年を迎えた知人男性が、突然妻を亡くして一人で生活することになった。

仕事一筋だったその男性は、一切の家事を妻に任せていたこともあって家事に関す

る知識も経験もなかった。また、身内は全て遠方にいて、仕事以外の付き合いの

ある人もいなく、身近に家事の支援をお願いできる人がいなかったし、家政婦に

依頼するほどの経済力もなかった。

ただし、至って健康であり生活も困窮してはいなかったため公的支援の対象とは

ならなかった。

 

半年ぶりにその方にお会いしてビックリした。

ふくよかだった体格はやせ細り、白髪が増えて表情も乏しく、この数カ月で10歳

以上年を取ったように見えた。おそらく、その時に要介護認定申請を行っていれば

「要支援」の認定結果が出ていたとしても驚かないくらいの状態にあった。

 

そこで私は、近所の民家で主催していた料理教室へお誘いした。初めは渋々参加し

ていたその方であったが、これまで格闘していた調理がスムーズにできることを

知り、またその他の家事も教わることができることを知ってからは、毎週の教室が

楽しみとなっていた。

さらには、その方がお住いの自治会長にその方を自治会活動に誘い出していただく

ことをお願いした。やはり初めは渋々の参加であったが、やがて活動に慣れて仲間

が増えてからは、自ら進んで自治会活動に参画していた。

 

久しぶりにその方にお会いすると、見違えるように若々しかった。

そして、「来年ここの自治会長になることになったよ」という笑顔がまぶしかった。

 

もしもその時に私が要介護認定の申請を代行して、”謎の呪文”を唱えながら、介護

保険サービスを調整していたら、全く別の結末が待っていたように思える。