手術において卓越した技術を持つ医者を『神の手』と表現されることがあるが、
私はその表現が大嫌いである。
先週、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性から頼まれ、薬物を投与して殺害し
たとして、嘱託殺人の疑いで、2名の医者が逮捕されるという事件が起きた。
人を殺めたのであるから罰せられて当然のはずが、この事件に関しては、業界内で
も賛否が分かれている。
なぜかというと、
ALSという病気は、重度化すると「生き地獄が待っている」と言われるほど患者を
苦しめる恐ろしい病気だからである。
ALSとは、運動神経系が侵され全身の筋肉が動かなくなり、最終的には呼吸器機能
が動かなくなって死に至らしめる進行性の難病で、その原因や治療法がいまだに
確立されていない病気のことを言う。
自発呼吸が難しくなると延命措置として人工呼吸器を装着することになるが、体の
大部分は全く動かないにもかかわらず、比較的意識はしっかりしているため、患者
は自分の状況を把握できていても自分ではどうにもできない恐怖心と闘わなければ
ならず、個人差はあるもののその状況が10年以上続くこともある。
また、痰を自力で出すことができないため、窒息しないように数十分おきに痰の吸
引を行う行為は患者本人はもとより介護者をも苦しめる。
私も以前、同様の方を担当したことがあり、『意思伝達装置』という特殊な装置を
利用してその方との意思疎通を行っていた。
そしてその方も「死にたい。地獄だ。」とよく言っていたことを思い出した。
そのため、人工呼吸器をつける決断に迫られたとき、多くの患者や家族だけでは
なく担当の医者も非常に迷うとよく聞く。
だからと言って、
情にほだされたからと言って、やっていいことと悪いことがある。
医者は神様ではない。
自殺を考え、ビルの屋上から飛び降りようとする人に対して、背中を押す行為を
正当化しようというのか。
患者や家族と一緒に悩んでくれて、親身になってくれる医者もいるが、
消えかけた命を救うことによって、神の手などと煽てられることによって
勘違いする医者も数多くいるように思える。
「おい!お前は神様じゃねーぞ、勘違いすんじゃね~!!」