北海道江別市でケアプランセンター、小規模多機能ホーム、デイサービス、訪問看護ステーションを運営するみのりの丘グループ

みのりの丘

みのりの丘代表ブログ

後押しすべきは多機能系サービス

2023.8.16

厚生労働省は、来年の介護報酬改定に向けた協議を重ねる中で、介護老人保健施設

を俎上に載せ、利用者の在宅復帰を後押しする機能の更なる促進を論点として提示

したが、日本医師会からは、「超強化型など機能が高くなるほど、人件費が上がっ

たり稼働率が下がったりして経営が厳しくなる。基本報酬の設定についてより詳細

な検討が必要ではないか」と提言があった。また、連合の生活福祉局長は、「在宅

復帰に向けた地域拠点としての役割、リハビリで心身機能を維持・改善する役割は

引き続き重要。報酬のメリハリ付けも念頭に置きつつ、サービスを必要とする高齢

者がしっかりと利用できるようにしていくことが必要」と述べた。

 

介護保険制度が制定されてから20年以上が経過しているが、介護老人保健施設の

取り扱いは迷走している。この施設は、「行き場を失った高齢者の社会的入院」を

解消するとともに、終の棲家として位置づけられている特別養護老人ホームとは

一線を画して、「在宅復帰を後押しする施設」という考え方のもとで誕生した。

 

立派な理念に基づいて制度化されたこの施設であったが、そもそも「行き場を失っ

た高齢者」の行き場を確保していないのだから、どれだけ立派な施設を作っても、

優秀なスタッフを揃えても「在宅復帰」にたどり着けるはずもない。

本来強化すべきなのは、受け皿となる在宅サービスの方である。逆説的に言えば、

介護老人保健施設のような立派な施設が無くても、在宅サービスが充実し十分に

機能していれば「在宅復帰」はいくらでも可能になる。

例えるなら、一生懸命に高性能な車を開発することに熱心で、肝心の道路を全く

整備していない状態と変わらない。未開の地で高性能なスポーツカーを走らせた

ところで”宝の持ち腐れ”にしかならない。

 

在宅サービスは、施設サービスと比較すると決して効率的とは言えない。

施設サービスの場合は、一所に要援護者も援助者も集まっているため、移動に時間

を要することもなければ、援助者の交代時にタイムラグも生じにくい。また、物理

的に多職種が連携しやすい。

一方で在宅サービスは、各ご自宅を単一の介護サービスが訪問して支援を提供して

いるため、上記の施設サービスであげた事柄が全て短所となってしまう。

在宅サービスは、時間や手間がかかる。つまり、人手とお金がかかるのである。

「施設を作ればなんとかなる」という安易な思考では、在宅復帰の課題は何一つ

解決しない。必要なときには手間やお金をかけなければならない。

 

ただし、人も金もないこのご時世で、むやみに在宅サービスを増やしていくことも

また非現実的といえるだろう。そこで、在宅サービスの中でも比較的効率がよく、

上記に挙げた短所が軽減される多機能系サービスを充実していく以外の方法はない

と考えている。

ところが、施設サービスよりも時間や手間がかかる多機能系サービスの介護報酬は

施設サービスよりも低く設定されている。

よほど強い理念をもっているか、その他のメリットが見いだせない限りは、時間や

手間がかかる割に報酬が低い事業を積極的に運営しようと考える企業はほぼない。

これが、多機能系サービスが増えてこない一因である。

 

国は、本気で「在宅復帰率」を高めたいと考えているのであれば、機能強化や介護

報酬改善の対象を介護老人保健施設ではなく多機能系サービスにするべきだろう。

その結果として、介護保険財政が健全化するだけではなく、在宅生活を強く望む

国民の要望に応えることにもつながる。